はじめに 発掘記録 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
■文化と自然1

001.鵺ぬえの声を聞く
002.象のいた村
003.赤米の栽培
004.明礬の稼ぎ
005.ヒデのあかり
006.消えた浅間大明神
007.馬鈴薯の栽培
008.熊野神社の大杉
009.硫黄の採掘
010.黒色磨研の注口土器
011.大笹関所
012.三原出土の経筒
013.シナ科のサユミ
014.高原の“舞姫”
015.石戈の発見
016.嬬恋駅周辺のにぎわい
017.鹿のいる風景
018.郷土料理“クロコ”
019「大笹の湯」引湯跡
020.天狗の麦飯
021.鎌原の郷倉ごうぐら
022.炭を焼く
023.山の呼び名
024.今井の宝篋印塔
025.門貝の熊野神社
026.袋倉の廻国供養碑
027.浅間嶽下奇談

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008.熊野神社の大杉

 成長したスギは、その容姿に神を思わせるものがある。このため神社の境内によく植えられ神木とあがめられる例が多い。万葉集の巻13には、「神南備の三諸山に斎る杉」とあり神格化した杉に関する歌や故事は少なくない。

 門貝鳴尾の熊野神社境内にある“サカサスギ”は、弘法大師がこの地を訪れた際、使用していた杖をさしたところ根が生え、逆さに育ったと言う伝説をもつ。目通りの幹囲約8.5メートル、高さ約36.6メートルの巨木で、天に向かって伸びる幹は堂々として力量感に溢れている。

 また、下枝が垂れ下がり各所に気根がみられる。その樹齢は、社殿背後の岩窟(奥の院)に刻まれた「文保3年」(1319)の銘から、少なくとも六百数十年を経たものと推定され、深山の厳しい環境の中に住む神仙の風貌を彷彿させるものがある。

 スギは、日本特産の常緑高木で、天然の分布は本州・四国・九州にみられるとされるが、本県での自然スギの状況などについては十分解明されていない。

 なお、裏日本のものは表日本のものに比べて、葉が一般に細かく、下部の枝が地に伏して根を下げる性質があり、裏スギと呼ばれている。

 こうした中で、群馬県内では国・県・市町村で天然記念物として指定されたスギは、現在16件を数えている。この中で熊野神社の大スギは、国指定の榛名神社の”矢立スギ”に次ぐ巨木であり、名木としても県内有数である。また、裏日本の自然スギの性質をあらわすものとして、学問的にも貴重である。

 樹齢六百数十年の熊野神社の大杉は、地域の入々と喜びや苦しみを分かち合いながら共存し今日に至っている。長い歴史の創造者なのである。また、嬬恋村の自然環境の豊かさを示すものとしても重要であり、昭和31年県指定天然記念物となった。