はじめに 発掘記録 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
■文化と自然1

001.鵺ぬえの声を聞く
002.象のいた村
003.赤米の栽培
004.明礬の稼ぎ
005.ヒデのあかり
006.消えた浅間大明神
007.馬鈴薯の栽培
008.熊野神社の大杉
009.硫黄の採掘
010.黒色磨研の注口土器
011.大笹関所
012.三原出土の経筒
013.シナ科のサユミ
014.高原の“舞姫”
015.石戈の発見
016.嬬恋駅周辺のにぎわい
017.鹿のいる風景
018.郷土料理“クロコ”
019「大笹の湯」引湯跡
020.天狗の麦飯
021.鎌原の郷倉ごうぐら
022.炭を焼く
023.山の呼び名
024.今井の宝篋印塔
025.門貝の熊野神社
026.袋倉の廻国供養碑
027.浅間嶽下奇談

■サイトマップ
■リンク
■トップページへ戻る

013.シナ科のサユミ

 シナと呼ばれる木がある。落葉の高木で、初夏の頃になると甘い香りを漂わせて小さな淡黄色の花が咲き、蜜蜂が群れる。

 現在あまり話題にならない木であるが、六合村には”品木”とされる地名があるし、信濃国の信濃は「シナの生えてる野」ともいわれる。嬬恋村には地名はないが実物がある。身近な例では、鎌原の創作館の東や延命寺跡の西側に接して、かなりの大樹がある。かつては何処でも見られた木であるらしい。

 一見何でもないような木であるが、実は、かつては大変重要な木で、家の近くの畑の脇に植えられ大切に育てられていた。それと言うのは、木綿などが普及していなかった昔。シナの木の皮を剥いでとった繊維で、糸を紡ぎ布を織ったり、編み物をしたりしていたのである。民俗学の研究者都丸十九一さんの御教示によれば、それを“サユミ”という。

 先日、そのまぼろしの織物を求めて、山形県西田川郡温海町の関川集落を訪ねた。関川は、四方を山に囲まれた40〜50戸からなる雪深い山峡の集落であった。そこでは、伝統的な技術によって、日本最古の織物とされる“シナ織り”が、国指定の重要民俗資料として、今に伝えられているのを、目の辺りに見た。そして、昔ばなしには、おなごどもは じろ(囲炉裏)ばたで シナの木の皮を指の先で 細くせえたり 績んだり ひとはた分のヘソ(綜麻)たまっと よえ(結い)してシナよらねばねえ…

 とある。長い冬の間、女性達が共同作業でシナ織りに精を出していた様子が偲ばれる。

 現在、嬬恋村でこうしたシナ織りの技術は伝承されていない。しかし、シナの木が、屋敷続きの畑の脇に大樹として存在することや、明治42年生まれの土屋長十郎さんによれば、シナの皮を剥いで繊維をとり、荷縄やショイビク(背負い袋)を作ったという。嬬恋の地にも、古くシナのサユミの技術と習慣のあったことは確かである。