はじめに 発掘記録 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
■文化と自然1

001.鵺ぬえの声を聞く
002.象のいた村
003.赤米の栽培
004.明礬の稼ぎ
005.ヒデのあかり
006.消えた浅間大明神
007.馬鈴薯の栽培
008.熊野神社の大杉
009.硫黄の採掘
010.黒色磨研の注口土器
011.大笹関所
012.三原出土の経筒
013.シナ科のサユミ
014.高原の“舞姫”
015.石戈の発見
016.嬬恋駅周辺のにぎわい
017.鹿のいる風景
018.郷土料理“クロコ”
019「大笹の湯」引湯跡
020.天狗の麦飯
021.鎌原の郷倉ごうぐら
022.炭を焼く
023.山の呼び名
024.今井の宝篋印塔
025.門貝の熊野神社
026.袋倉の廻国供養碑
027.浅間嶽下奇談

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017.鹿のいる風景

 今年も今井の東平遺跡の発掘調査が、9月1日から開始された。これ迄のところ、縄文時代の中期とされる今からおよそ4500年前頃の住居跡や土器、石器が発見されている。

 そんな発掘調査の現場へ、9月22日思いもかけない来訪者があった。2匹の鹿である。ほんの40メートルほどの所へ、突然現れた親子の鹿は、しばらくわれわれの作業を珍しそうに眺めていたが、その後、畑の縁に沿って移動し、やがて、地元の作業員の脇を抜けて、山の中へ姿を消した。

 今井区に鹿がはじめて現れたのは、昨年の10月頃と言われる。はじめは、1匹だけだったが、今年の5月頃に子鹿が誕生し、以来、睦ましい親子のカップルとなって、今井区の田畑を巡回し、時に宅地にまで出現すると言う。そして、その美しい肢体と、仕草の愛らしさは、区民からは、多少の農作物の被害について、大目にみてもらいながら今日に至っている。

 わが国の古語に“カノシシ”と“イノシシ”がある。カノシシとは鹿のことであり、イノシシとは、記すまでもなく猪である。このように鹿と猪は、わが国では古くから代表的な狩猟獣とされ、特に、鹿は肉は旨く毛皮は良質なので重視され、なじみ深い獣とされてきた。

 事実、長野原町の「石畑岩陰遺跡」は、縄文時代の遺跡であるが、鹿や猪を中心とした、獣骨が大量に出土した。また、中之条町の「有笠山岩陰遺跡」は、弥生時代の遺跡であるが、ここでも鹿や猪の骨が沢山発見されている。これらのことは吾妻地域においても、鹿が古くから人間生活に深く係わっていたことを示している。ここ東平遺跡の繁栄も、その鹿の存在を抜きにしては語れない。

 “縄文の里・今井”にみる「鹿のいる風景」は、その歴史を追想させる1幅の名画であると共に、自然環境の豊かさと、そこに住む人々の心の優しさを示している。