はじめに 小論集 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
■風土博物館

1.序文
2.嬬恋村風土博物館の提案
3.嬬恋村整備構想

4.鎌原地区整備構想
  4-4.埋没村落整備構想
     @鎌原観音堂石段
     A延命寺跡
     B十日ノ窪民家跡
  4-5環境整備構想
     @全体計画
     A街並
     B延命寺跡周辺
     C資料館周辺

5.推進計画
6.調査計画

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6.調査計画

6−1 文化財調査

 嬬恋村風土博物館の構成要素について、総合的かつ系統的に調査する。対象は多岐に渡るが、文化財的な観点から整理することが適当であろう。
 ここで中核的地区と位置付けられる鎌原地区では、以下の調査事項が揚げられる。

 文化財
  記念物−−−−−史跡(埋蔵文化財)
          名勝・天然記念物

  建造物−−−−−建築物・石塔類等

  美術工芸−−−−絵画・彫刻・刀剣等

  民俗文化財−−−有形(民具・信仰用具等)
          無形(祭礼・儀式・昔話等)

@記念物
 ・史跡(埋蔵文化財)
 調査目標は、押出し以前の埋没集落と押出し以後の集落各々に設定する。
 埋没集落については、延命寺跡・十日ノ窪民家跡等は一部調査されているが、集落の全体像は解明されていない。当時の集落の形態について、道の位置や民家の分布範囲等の地理的な位置付けと、“どういう集落であったか”という歴史的な性格の明確化を目標とした計画的なトレンチ調査が検討される。
 また、押出し以後の集落は、宿場街整備の対象とするものであるので、道の中央に設けられていた水路等、具体的な形態についての調査を計画する。

 ・名勝・天然記念物
 現在の鎌原地区について、歴史的環境の母体となる自然環境の保全を目的とした、景観に係る調査が必要である。また、特徴的な点景となるカラマツ林や押出しによる押切端(オシキリッパ)、あるいは樹木や湧水等も調査対象となる。

A建造物
 現存する古い構造を遺している建築について、実測調査・構造調査・歴史調査等が必要である。
 この調査は、記録保存であるとともに、現在改変されつつある集落の景観整備の基礎資料であり、民家復元・修景や新築・改築の指針設定に役立つものである。

B美術工芸・民俗文化財
 鎌原の風土に培われて来た生活用具や玩具、あるいは手工芸品等の有形物や、年中行事 ・祭礼あるいは昔語などの無形文化財についての調査である。
 集落の構造が近代化するなかで、ヒヤリンクが可能な現時点で行うべきであろう。


6−2地質調査計画

@地形・地質(概要)
 調査地は、浅間火山中央火口丘(釜山)より北方約12kmに位置する。この地域は浅間山北麓末端部にあたり、標高約900mの台地上の平坦地である。
 浅間火山の地層の特徴は、噴出物中にいろいろの種類の火砕流堆積物が存在していることであり、現在確認されているものだけでも10層を越えている。
 調査地域である鎌原地区には、天明3年(1783年)浅間山の噴火活動中に発生した土石流(鎌原火砕流堆積物)が流下して堆積している。
 この土石流は噴火当時、浅間山北麓の村々を埋めるとともに、吾妻川に流入して洪水をひきおこす等の災害をもたらした。
 今回の史跡公園化構想である埋没村落「鎌原村」も、この天明3年に発生した鎌原土石流により埋没したものである。

A調査方針
 鎌原地区に堆積する鎌原土石流の堆積厚さは、およそ6m〜8m前後(嬬恋村教育委員会の発掘調査の結果より)であると推測される。
 しかし、この堆積物の土質性状(物理特性、力学特性)ならびに鎌原土石流下位の地層構成および土質性状は不明とされている。
 ここでは、まず埋没村落周辺の地層構成を確認することが重要課題と考えられ、保存維持、復旧対策を検討していくためにはこれを基本資料とし、より詳細な地質調査を今後に実施していくことが望まれる。
 今回の計画は、基本資料とする埋没村落周辺の地層構成を確認することを目的とするものである。
 保存維持、復旧対策検討のための具体的な調査計画案は、調査後に立案していくものとする。

地質調査年次計画(案) (別表)



B基本調査の目的

(1)ボーリング
 地層構成を確認するために機械ボーリングを実施する。
機械ボーリングによる削孔は、地層構成を確認する他に、土の工学的性質を知るための試験試料の採取や孔内原位置試験の実施にも用いられる。
 今回の掘削に際しては、オールコアボーリングと右下に記す標準貫入試験を併用して土質試料を採取する。
 オールコアボーリングは棒状試料(コア)採取され、これにより遺構面の出現深度の判定が容易になる他に、史跡に関連する遺物の破片等が採取される可能性がある。
 ボーリンクは、鎌原観音堂、十日ノ窪、延命寺跡の各調査地点内で各々2ケ所実施する必要がある。
 これは、地層断面を推定するためである。特に、史跡の埋没面(鎌原土石流が堆積する範囲)と旧地形面とで各々ボーリングを実施することにより、地層の変化を確認すると共に、土石流の規模や流下、堆積範囲についての検証が可能となり、後に検討される土質工学的問題を解明する基礎資料になる。


(2)標準貫入試験
 ボーリング孔を利用して1m毎に実施する原位置試験で、土の硬軟度を知ることができる。
 試験は、自重63.5kgのハンマー(モンケン)を75cmの高さから自由落下させ、先端に設置された標準貫入試験用サンプラーが地中に30cm打ち込まれるまで打撃を繰り返すものである。(硬質地盤においては一般に打撃回数50回を上限としている)
 この打撃回数は、N値と呼ばれる土の硬軟度を表す指標となる。(下記の表参照)
 また、サンプラー内には撹乱試料が採取され、これは物理試験(室内土質試験)試料となり、土の物理特性を調べることができる。


N値と土の状態

(砂の場合)           (粘性土の場合)
N値   土の状態         N値   土の状態
0〜4   極めてゆるい       0〜2   極めて軟らかい
4〜10   ゆるい          2〜4   軟らかい
10〜30  中位           4〜8   中位
30〜50  密に締まっている     8〜30   硬い
50以上  極めて密に締まっている  30〜50  極めて硬い
                  50以上  極度に硬い



(3)物理試験(室内土質試験)
 この試験は、土の物理特性を調べるものであり、この試験の一般的必要性は、
  1)物理性質で土を分類する。
  2)共通した物理特性によって、地層の統一が図れる。
  3)物性値で土の力学特性を推定および補正が図れる。

等であり、今後の地質調査においての基本資料と成り得る。
 物理試験項目は以下に記すとおりである。

 ・比重・含水・粒度試験:土粒子の比重、土に含まれる水の量、土粒子の粒径およびその分布状態を各々調べ、土の性質判定に用いる。

 ・液性、塑性限界試験:含水量を変化させ、土の状態の変化(液性状〜塑性状〜固体状)を調べる。この状態変化は含水比で表され、土の性質を分類するために行う。(なお、この試験は粘性土を対象とする)

(4)現場観察(踏査)
 現場周辺の状況を史跡保存維持の立場より観察し、地質調査総合検討の参考とする。


6−3保存技術調査
 観音堂・延命寺跡で計画している露出展示や十日ノ窪での体験発掘に伴って、遺構・遺物の保存技術に係る調査や試験施工が必要である。
 鎌原地区の場合、延命寺跡・十日ノ窪民家跡の発掘調査から、地下水環境に依って遺物(特に木材)が良好に遺存している状況が知られている。これを露出展示する場合、いかに含水比と温湿度環境を一定に保ち、風化を防止するかが課題となる。
 これには、土木・建築的手法と、保存処理材による化学的手法の両面から対応しなければならない。樹脂等の保存処理材の研究は近年発展を見せ、その事例も増えつつあるが、遺跡各々の個有性が強いため、現地での調査・開発・試験施工が重要な過程となる。
 また、埋め戻す場合、発掘前の地下水環境を如何に変えないかということが課題となる。この地下水の状況は、地盤調査と伴せて行うべきであろう。