はじめに 発掘記録 文化と自然1 文化と自然2 文化と自然3 文化と自然4 風土博物館
■文化と自然1

001.鵺ぬえの声を聞く
002.象のいた村
003.赤米の栽培
004.明礬の稼ぎ
005.ヒデのあかり
006.消えた浅間大明神
007.馬鈴薯の栽培
008.熊野神社の大杉
009.硫黄の採掘
010.黒色磨研の注口土器
011.大笹関所
012.三原出土の経筒
013.シナ科のサユミ
014.高原の“舞姫”
015.石戈の発見
016.嬬恋駅周辺のにぎわい
017.鹿のいる風景
018.郷土料理“クロコ”
019「大笹の湯」引湯跡
020.天狗の麦飯
021.鎌原の郷倉ごうぐら
022.炭を焼く
023.山の呼び名
024.今井の宝篋印塔
025.門貝の熊野神社
026.袋倉の廻国供養碑
027.浅間嶽下奇談

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020.天狗の麦飯

 鹿沢の紅葉館2代目の主人小林亀蔵は、山を愛する傍ら植物にも造詣が深かった。ある時、長野県の岩村田で、”天狗の麦飯”とされるものを見、「これなら俺の所にもある」と気付いた。以来、紅葉館の主人は、その天狗の麦飯をあたたかく見守り今日に至っている。

 世界に類例のない、日本特有の天狗の麦飯とされる不思議な生物は、紅葉館から1キロほど離れた割山(角間山)の南斜面にある。砂混じりの腐食土を数センチほど除くと、黄褐色をした小さな粒子が、粘質状態で層をなして繁殖している。その状態は、一見、麦を入れて炊いたご飯のようにもみえるので「天狗の麦飯」の名称が与えられたのであろう。

 この珍奇な生物の正体は、一体何だろうか。これについてこれまで多くの研究がなされてきたが、古くは細菌であろうとされてきた。しかし、近年になってその正体は、下等の藻類である藍藻(らんそう)とされるものであることが判明した。そして、その産地は、長野県の飯綱山などを中心に、浅間山など、富士火山帯とその周辺の標高1000メートル以上の火山性山地にみられることも明らかとなった。

 ところで、この天狗の麦飯は、何時どこで誰によって最初に発見されたか明らかでない。おそらく、最初にこれを発見した人は、山頂を巡礼する修験者か、山野を飛び歩く猟師たちであったであろう。天保14年に発行された「善光寺道各所絵図」には、天狗の麦飯の記載があり、すでに、その頃、信州では不思議な食べ物とされていたらしい。

 角間山は、別に割山と呼ばれていたが、割とは「ひきわり飯」のことで、麦飯を意味するので、天狗の麦飯を産する山という意味であろうか。

 なお、この地には、明治25年の頃、吉田とされる修験者が、天狗の麦飯ばかり食って、60日近くもの間、行を積んだとの話も伝えられている。鹿沢は世界でも稀な生物の生存する地である。